映画「閉鎖病棟-それぞれの朝-」は2019年に公開された日本の映画です。
原作は作家で精神科医の帚木蓬生(ははきぎほうせい)さんで、山の上にある精神科病院を舞台にした人間ドラマです。
以下は一部ネタバレを含む感想になります。精神保健福祉士の立場として気が付いたことも述べています。
元死刑囚 秀丸さんの存在感
元死刑囚の秀丸さんは笑福亭鶴瓶さんが演じています。
秀丸さんはすでに死刑執行された元死刑囚です。しかしどういうわけか死に至らず精神科病院に送られ、病院をたらい回しにされていました。
映画全体を通して秀丸さんの存在感が大きいです。
映画は秀丸さんの死刑執行シーンから始まるため非常に重苦しい雰囲気です。
何年か後、秀丸さんは車いすを使って、長野の精神科病院で穏やかな生活を送っています。
同じく入院患者の青年チュウさんや、新たに入院してきた少女由紀ちゃんなどと互いを思いやる交流もあります。
しかし秀丸さんは、秀丸さん自身の過去の罪を背負い、自らを罰し続けているように見えました。
もう一つ気になった点は、車いすの秀丸さんがじつは歩く能力が残っていたのでは?ということです。
単に歩くことをあきらめていたのか、あるいは自由に歩く権利さえ自分を罰するために自ら奪っていたのでしょうか。
精神保健福祉として気になった点
精神保健福祉士として精神科病院に勤務した経験はありますが、やはりほかの病院の様子というものはなかなかわからないものです。
精神保健福祉士としてこの劇中の病院を見たときに、気になった点を挙げてみました。
一列に並んで服薬チェック
映画の中で、ナースステーションに入院患者が1列に並び順に薬を飲むシーンがありました。
1人ずつ看護師の見ている前で薬を飲み、ちゃんと飲んだかどうか口を開けてチェックされます。
このような光景は精神保健福祉士の授業で聞いたことがあり、海外の映画でも観たことがあります。
しかし私自身はそのような場面に遭遇したことはありません。
今もしている病院ってあるのかな、とふと思いました。
映画の時代背景は定かではありませんが少し前の時代のように見えます。
見習いたい患者との向き合い方
小林聡美さん演じる精神科病院の看護師長井波さんは、淡々とした態度で患者さんたちを見守っています。
井波さんの患者さんとの向き合い方には見習いたい点が多々ありました。
逆に不適切な例も映画の中にあって、チュウさんが院内のルールを破ったときに、ある看護師が保護室隔離を匂わす発言をしました。
保護室の使用は医療上必要と認められる場合のみです。
ルールを守らないのは困りますが、保護室は懲罰が目的はあってはならないため、軽はずみな発言をするスタッフのあえての存在例かと思いました。
閉鎖病棟が舞台の映画 2本
「閉鎖病棟-それぞれの朝-」を見て閉鎖病棟が舞台の映画をいくつか思い出しました。
「17歳のカルテ」(1999年アメリカ)と「クワイエットルームにようこそ」(2007年日本)です。
「17歳のカルテ」はとにもかくにも、アンジェリーナ・ジョリーの演技が強烈な印象を残します。
ちなみに主役はウィノナ・ライダーです。入院した先の精神科病棟でアンジェリーナ・ジョリー演じる少女に出会います。
「クワイエットルームにようこそ」は松尾スズキさんの小説が原作で内田有紀さん主演の映画です。
内田有紀さん演じる明日香はオーバードーズで入院します。
17歳のカルテより大人の女性たちですが、病棟で個性的な患者たちと出会います。
ウィノナ役、明日香と、由紀ちゃんは少し重なるように感じました。
この3人は病院に戻ってくる可能性は低いんじゃないかなーという点で。
しかし「閉鎖病棟」との大きな違いは、ほかの2本は病院と病院の外がはっきりわかれていたことです。
ウィノナ役と明日香は退院して話が終わり、退院した後は2人とも患者仲間とはもう関わらなさそう。
入院生活はこの人たちにとってすでに過去です。
しかし由紀ちゃんはそうではありません。
由紀ちゃんはいったんは病院を離れるのですが、その後患者仲間との再会があります。
「閉鎖病棟」は病院の中と社会が分断されずに描かれていました。
途中はどうなることやらとドキドキしますが、未来への希望を感じる清々しい終わり方でした。