「依存症からの脱出 つながりを取り戻す」信濃毎日新聞社著(海鳴社・2018年)についてご紹介します。
学生時代から依存症に関心があり、京都の依存症回復施設の設立に、微力ながらボランティアとして参加しました。
それから約20年が経ちましたが、残念なことに、20年前に比べて社会の理解が進んだ感覚はあまり感じられません。
この本は、今の時代の依存症の理解に必要なことが、幅広く1冊に凝縮されています。精神保健福祉士の視点から感想をまとめました。
日常に潜む依存症
本書には、著者の取材に基づいた、依存症の本人や家族の体験が収められています。
それらは、ただ悲壮な体験談や、感動の回復ストーリーとしてではなく、日常から始まる、極めて現実的な内容が中立な立場で淡々と述べられています。
それがかえって、日常に潜む依存症や、本人や家族の葛藤を、率直に読者に伝える手段となっています。
一言に依存症といっても、種類はさまざまでひとくくりにすることはできません。
本の中では、薬物依存症やアルコール依存症、摂食障害やギャンブル依存症、ゲーム障害など、それぞれの依存症についても、本人自らが語ります。
また、家族の立場からの、本人や病気との関わりについても描かれます。
ほかには支援者、医療従事者、各業界、海外の事例など、依存症を取り巻く様々な立場からの取り組みがわかりやすく紹介されています。
各業界というのは、依存症の原因の恐れとなるパチンコ、アルコール、ゲーム、SNSなどのサービスを提供している業界です。
病気を防ぐために行っている対策や、逆に依存を誘発する仕掛けの存在も知ることができます。
また支援者というのは、セルフヘルプグループや回復支援施設、病院や刑務所などです。
刑務所というと、一般的には支援者という表現は使いませんが、薬物事犯で服役中の方に向けて、出所後の再発(再犯)防止のためのプログラムは回復支援の一部といえます。
それぞれの取り組みや、実情を知ることができ、中でもセルフヘルプグループやピアサポートの仲間が、本人にもたらすポジティブな影響が印象に残りました。
新たな疾患:ゲーム障害とネット依存
2019年にゲーム障害がWHOに新たな依存症として認定されました。
本が出版されたのは2018年ですが、新しい疾患としてはまだ認知度が低いと思われる、ゲーム障害とネット依存についても詳しく書かれています。
私は、自分が子どものころからテレビゲームで遊んだ経験がほとんどありませんでした。
そのため、ゲーム操作自体に苦手意識があり、たまに「きれいだな~」と思う映像もありますが、自分で楽しく遊べる自信がありません。
そんなゲームには疎い私ですが、10代や20代の若者が、普段の日常からどのようにゲームに没頭していくのかを本書から知ることができました。
つながりが失われる病気だからこそ
本書後半では、依存症行動の原因について、精神科医の見解や、回復プログラムについても知ることができます。
依存症は人とのつながりを失いかねない病気です。
本人がどれほど止めたいと願い、何度決断しても、いざ引き金がひかれると行動を起こしてしまいます。
周囲が疲弊し、裏切られたという感情に支配されてしまうと、ますます本人は孤立しがちになり、悪循環を繰り返して周囲とのつながりが失われていきます。
失われたつながりを取り戻すことこそが、病気から自分自身の人生を取り戻す糸口となるように思いました。
回復に必要なつながりは、家族のことだけを指しているわけではありません。
ピアサポートの仲間やセルフヘルプグループかもしれないし、回復プログラムや支援者たちかもしれません。あるいは病気が原因で疎遠になった友人や仕事、あきらめてしまった夢や人生かもしれません。
人によってはその全てかもしれません。
依存症の回復に必要なこととして、つながりを取り戻すことの大切さを、この本から読み取ることができました。