「ペイン・キラー/死に至る薬」は、40万人以上の犠牲者を出したアメリカのオピオイド問題を取り上げた実話に基づくネットフリックスのオリジナルドラマです。
1990年代半ばに鎮痛薬として商品化されたオキシコドン(商品名オキシコンチン)により、若者を含む多くの人が過剰摂取で命を落としました。
ドラマを観た感想やオピオイド問題についてまとめました。日本の市販薬過剰摂取問題についても触れたいと思います。
オピオイド問題とは
オピオイドは一般に麻薬性鎮痛薬のことを指し、オキシコドンはオピオイド系の鎮痛薬の一つです。オキシコドンはモルヒネより強い作用があり、本来は緩和ケアやがんなどの重篤な痛みを和らげるために限定的に処方されるものでした。
アメリカの製薬会社パーデュー・ファーマ(以下パーデュー)が1990年代半ばに販売したオキシコンチンはオキシコドンを含む処方鎮痛薬でした。
パーデューはオキシコンチンの安全性をうたい文句に、メディアを使って大々的に売り込みました。患者に薬を処方するのは医師なので、同社は医師に対しても痛み止めとしてオキシコンチンを処方するよう積極的に働きかけました。
その結果、本来は限定的に使われていたオキシコドンが、処方鎮痛薬として広まりました。
パーデューはオキシコンチンにより依存症になる恐れは1%以下としていました。しかし、実際は治験の段階から依存症になり治験を脱落するものが続出し、医師の指示通りに服用しても依存症になる恐れがある非常に危険な薬でした。
それにも関わらずオキシコンチンはのFDA(アメリカ食品医薬局)の承認を受けたために痛み止めとして広く処方され、パーデューがオキシコンチンで莫大な利益をあげる一方で、その後も長く続く甚大な被害につながりました。
悪いのは製薬会社だけ?国の責任は?
ドラマを通して初めてアメリカの深刻なオピオイド問題について知りました。
国の承認を受け、医師により処方された薬で大勢が命を落とすなど本来はあってはならないことです。
このドラマは私に日本の薬害エイズを想起させました。1980年代初め、血友病患者などの治療に使う輸入非加熱血液製剤によって子どもを含む血友病患者がHIVに感染しました。
当時はいまと違い有効な治療薬もない時代で、多くの被害者がエイズを発症し亡くなりました。
薬害エイズは国の担当者や製薬会社側が非加熱製剤の危険性を認識していながら、回収されることなく使われ続けたことが被害をさらに拡大させました。
利益を優先し命を軽視した、まさに組織ぐるみの殺人です。薬害エイズ訴訟では薬剤を認可した旧厚生省、製薬会社がその責任を問われました。
オピオイド問題ではドラマを観る限り、パーデューが巨悪の根源のように描かれています。オキシコンチンの発売を承認した政府機関FDAの責任についてはあまり触れられません。
パーデューにとってFDAの承認は重要な関門でした。そこさえ越えればお墨付きをもらったのも同じこと、実際パーデューはFDAの承認や認可された使用上の注意書きを引き合いに出し、過剰摂取は使用者に責任があると主張しました。
一般的な鎮痛薬として承認したFDAがこの問題の責任を問われることがなかったのかが気になります。FDAの承認審査業務の担当者はたったの1人、しかもその担当者、オキシコンチンを承認した後は退職してあろうことかパーデューの一員となってしまいます。
ドラマでは、オキシコドンの危険性を認識し安易に使おうとしない良心的な医師と、パーデュー販売員の言いなりで利益に目がくらみ過剰処方に加担した医師との対比が印象的でした。
日本の市販薬過剰摂取問題について
オピオイド問題は日本にとっても対岸の火事ではありません。オキシコドンについては厳重な管理の下で使用されているため、今すぐに市民に流通することは考えにくいですが、日本でも市販薬の過剰摂取が問題になっています。
厚生労働省研究班の調査により、市販薬の過剰摂取で搬送された急性中毒患者の平均年齢が25歳で、8割が女性だったことが明らかにされました。
死亡例はなかったものの、若い女性を中心に市販薬の依存が広まっている恐れがあることがうかがえます。
じつは市販薬についても依存性成分を含む商品があります。そのような薬が薬局で買えるとなると誰でもどこでも手に入れられることになり、使用者の中には依存が形成される人が出てきてもおかしくありません。
ドラマを観て、本来症状の緩和や治療のためにある薬が、健康を損なわせたり最悪の場合死に至る薬になり得るインパクトはかなり大きかったです。
日本で依存性成分を含む市販薬を問題視して声をあげる専門家はそう多くないように思います。具体的な商品名を名指しで注意喚起するのは勇気がいることです。
私たちも市販薬過剰摂取や依存性成分を含む市販薬についてもう少し認識を広めていく必要があると思いました。