「マインド・コントロール」医学的見地からマインドコントロールについて書かれた本をご紹介

精神科医によるマインド・コントロールについて書かれた本をご紹介します。著者は人格障害や愛着障害に関する著書が多数ある岡田尊司氏です。

岡田先生の本を初めて知ったのはパーソナリティ障害に関する本がきっかけでした。それ以来、おもに人格障害や愛着障害、家族問題に関連する本を手にとってきましたが、今回偶然にこの本の存在を知りました。

著者のこれまで読んだ本とはすこし趣向がちがったので意外な感じがしましたが、大変興味深い内容だったのでぜひこちらで紹介したいと思いました。

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精神科医によるマインド・コントロールに関する本

この本は、精神科医である著者自身の臨床経験のほか、公表されたマインド・コントロールにまつわる裁判の記録、海外の洗脳研究に関する文献や公開された諜報機関の極秘資料などをもとに構成されています。

参考文献には日本のマスコミに取り上げられたアメリカのマインド・コントロールやカルトの専門家スティーブン・ハッサン氏の著書も含まれています。

公表された裁判記録については、特定の団体名こそ明記されていないものの、霊感商法で有罪判決を受けた宗教団体であることがわかります。

実際のところ、マインド・コントロールや洗脳の手法についてここまで詳しく書かれた本は読んだことがありませんでした。そのため、ここまで公につまびらかにされていいものか、悪用されはしないものかと読んでいてそら恐ろしく感じることさえありました。

しかし一方で、巷にあふれるカルト団体に関する興味本位の記事や、異常性ばかりを強調した記事やストーリーではなく、本書のような医学的見地から冷静にマインド・コントロールを分析したものを求めていたためかなり興味深く読むことができました。

私が一番知りたかったのはマインド・コントロールされる人の心理でした。カルト団体などに心の拠り所を求めていく人の理由が知りたかったのです。

たぶんそこに関心を持ち、この数カ月間なんとなく関連する記事などを拾い読みし、ようやくこの本にたどり着きました。

マインド・コントロールされる人の心理

本書ではマインド・コントロールを可能にする要因として「転移」の存在を指摘しています。そして転移の悪用が長期のマインド・コントロールを可能にしているとされています。

転移についてよく知らないという方のために、下記の説明を引用させていただきます。

患者の、治療者に対する対人関係は、関係が深まると、患者の過去の対人関係の形かたちをとりやすい。これを「転移」という。(中略)転移という現象は、べつに精神分析学や患者・治療者関係にかぎらない。対人関係一般にひろくみられる。

中井久夫・山口直彦「看護のための精神医学 第2版」医学書院49頁

患者と治療者は、支援の場においてはクライエントとワーカー、対象者と専門職におきかえることも可能でしょう。

良好な関係が築かれ、患者が治療者に転移の感情を向けてきたとき、それを治療者がどう扱うかが治療効果の成否を握ります。この転移感情をたくみに操り悪用する不完全な治療がマインド・コントロールを可能にするとされ。これを本書では「出口なき転移」と表現しています。

下記の引用部分は本書の核心にふれているのではないかと思います。なぜ人は出口なき転移に陥ってしまうのか、それについての解説部分です。

では、なぜ、多くの人は転移のワナに陥るのか。それに対する一つの答えは、人々はつながりを求めようとする根源的な欲求をもっているということだ。しかも、それは単なるつながりではない。転移で再現されるのは、その人にとって重要だった人物との関係である。親や兄弟など、かつて愛憎関係にあった存在である。つまり、出口のない転移が求めているのは、愛着した存在とのつながりの再現であり回復なのである。もっと一言でいえば家族なのである。

岡田尊司「マインド・コントロール」文藝春秋2016年

その意味で、カルト教団にしろ、反社会的集団にしろ、それらが疑似家族として機能していることは、必然的なことだといえる。現実の家族から離反し、グルや教団に対して理想的な親や家族を求めるのである。(中略)幼い頃に愛した存在を求めようとするエネルギーは、極めて根源的で、強力なものなので、それは、何十年にもわたって、その人を支配し続け得る。

岡田尊司「マインド・コントロール」文藝春秋2016年

つまりマインド・コントロールの影響下に長く置かれている人は出口なき転移によって自らを支えているということです。マインド・コントロールを認めることは、自らを支えてきた世界の崩壊に等しくもあるため、現実に目を向けることはその人にとって大変つらいことであると想像できます。

また残酷な現実と向き合うことは精神的な危機が訪れる恐れがあることについても言及されています。

東西冷戦が洗脳研究を後押し

しかし一方で、マインド・コントロールを受けた状態はゼロか百かではないことが、東西冷戦においていわゆる東側の戦争捕虜になり、後にアメリカに帰還したパイロットたちの調査結果を通して明らかにされた事例が示されています。

戦争捕虜になったパイロットたちは、以前の自分を完全に否定するほど人格と思想が変容し、いわゆる洗脳を受けた状態とみられていました。調査結果は、そのような状態でもその人の中ではぎりぎりの葛藤が続いていることを明らかにしました。

マインド・コントロールの影響下にあったとしても、目先の救済と良心との境界線上で苦しんでいることのほうがむしろ多く、そのことはその人たちが「帰還」できる可能性を示していると本書では述べられています。

結果的に東西冷戦が洗脳研究を後押しし、アメリカでも国として思想改造や洗脳の研究が行われていたそうです。初めて耳にする「MKウルトラ計画」というものにも触れられていましたが、相当に悪名高いものだったようです。

悪名高いといって浮かぶのはかつて日本でも行われたロボトミー手術ですが、洗脳研究の実験も非人道的なもので、休憩をはさんでようやく先に読み進められるといったところでした。

最終章「マインド・コントロールを解く技術」における救出・脱会カウンセリング(イグジット・カウンセリング)は大変理解しやすいものでした。救出カウンセリングの手法は強制的な方法はとらず、あくまでも本人の主体性を尊重したものです。

なにかもっと自分が知らない特別なスキルや秘密があるかと思いきや、需要と共感によって信頼関係をつくるという支援の基本を軸にしたものでした。

世間から非難され家族から孤立してもなお、搾取され続ける組織内部にとどまるしか道がないと思っている人たちは、明らかにマインド・コントロールの被害者といえます。

その人たちがほかの道を見出し、主体性を取り戻そうとするまでにはそれなりの時間がかかると思います。そういった被害者の方たちを社会がサバイバーとして受け入れる体制が必要であると思いました。

印象に残った箇所として付記の引用をご紹介します。

忘れてはならないのは、マインド・コントロールは、テロリストといった、見るからに危険そうな集団の専売特許ではなく、親切な顔をして、あなたに奉仕する存在として、いつの間にかあなたの懐に入り込み、あなたをコントロールする手段としても活用されているということだ。

岡田尊司「マインド・コントロール」文藝春秋2016年

身につまされる言葉です。マインド・コントロールから自分を守る書としてもおすすめです。

転移の解説の引用元の文献「看護のための精神医学」です。看護師さんの教科書として使われているそうです。

終始あたたかみのある文章で、読み物としてもおすすめです。手元に置いておきたい1冊です。

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