2021年2月に出版された松本俊彦先生の書籍を読みました。
松本先生は編者として、本書には自殺対策の最前線に身を置かれている各方面の方々の寄稿と対談が収められています。
読後に感じたことを精神保健福祉士の視点からまとめました。
編者・松本先生について
松本俊彦先生は、国立精神・神経医療研究センターを拠点に臨床の現場や依存症啓発活動、講演・出版等でご活躍されている先生です。
近年は依存症関連の報道で専門家として発言されるなどメディアを通して拝見する機会が多いですが、過去には長らく自殺対策に取り組まれていて書籍も出版されています。
今回ご紹介する本も含めて、精神保健に携わる者としてぜひ読んでおきたい本ばかりです。
精神保健福祉士業務と自殺予防
人の生死にまつわる話題を軽々しく話題にはできませんが、かといって全く話題にしないままに自殺予防対策はできません。
精神保健福祉士として働き始めて気づいたことは、精神保健福祉士は、どちらかといえば自殺のリスクが比較的高い集団を対象として相談支援をする仕事であるということです。
その背景には、自殺で亡くなられる方は高い割合で亡くなられる前に精神疾患を患っていると言われていることがあります。
自殺に至る要因は必ずしも一つだけではありません。ですので、精神疾患がそのまま自殺に結び付くわけではありませんが、少なくとも相談を受ける中で「死にたい」と言われる可能性はあるといっていいでしょう。
「死にたい」と言われたとき
目の前の人あるいは電話の向こうで「死にたい」と言われたとき、聞いた側の心は大きく揺れます。
例え初対面の知らない人であっても当然死んでもらいたくはありません。
聞いた側の心は揺れ、返す言葉が見つからないかもしれません。
もしかしたらその重大な告白の重さに耐えかねて明るい話題に変えてしまうかもしれません。
しかし、「死にたい」と一言も言わずに自殺を既遂してしまう人がいる一方で、「死にたい」と言葉にして言ってくれたことは精神保健福祉士として受け止めるべきだと思います。
もしかしたら解決の糸口のようなものが一緒に見つかるかもしれないしその場では見つからないかもしれません。
大切なのは「死にたい」という気持ちを受け止めて、相談した側が話を聞いてもらえたと思ってもらうことだと思います。
そしたら、もしかしてまた死にたくなったときやつらくなったときに電話をくれるかもしれません。
本書の特徴「珠玉の臨床知」
誰もが戸惑うようなこの切実な訴えと現場で向き合う方たちの貴重な経験をこの本を通して知ることができます。
「臨床知」という表現は本書の導入部分からの引用です。
この特別企画は、自殺対策の最前線に身を置き、日々、悩める人の「死にたい」とう必死の告白と対峙してきた支援者の方々にご寄稿いただいたものである。いま再読してみても、それぞれの緊迫感ある文章は珠玉の臨床知にあふれている。
松本俊彦 編 「死にたい」に現場で向き合う 自殺予防の最前線 日本評論社2021年 「はじめに」より
医療や保健の現場以外で自殺対策に取り組んでいる方もいて、その新しい取り組み、発想に見習うべき点が多々ありました。
正直にいうと私の場合は1章ずつ間を空けて読むのがやっとでした。
それくらい1章1章に重みがあり、考えや気持ちを整理してから次に進む時間が私には必要でした。
「死にたい」と相談されたとき、私の心はまだ大きく揺さぶられます。
しかし支援者として、相談者の死にたいほどつらい気持ちや本心に向き合える力を付けていきたいと思いました。