中央法規出版から発行された日本臨床心理学会による書籍「幻聴の世界-ヒアリング・ヴォイシズ」という本をご紹介します。
精神障害や幻聴に関する専門的な内容を扱ってはいるものの、一般向けにわかりやすさを重視したものとなっているため手頃に読める1冊です。
この本を読むと、きっと幻聴の見方が変わると思います。
不思議な幻聴世界
本書は、統合失調症と診断された方の幻聴体験から始まります。
幻聴とのやり取りや、体験者が支離滅裂とも思える幻聴に従った行動が、臨場感ある言葉で語られます。
次第に現実と非現実の区別があいまいとなり、読み手もおおいに混乱します。
まるで読み手自身が幻聴の世界に入り込んだかのように。
幻聴は声が聞こえる人にしか体験できないことで、今までその内容の多くは語られてきませんでした。
そのため、幻聴により日常生活を脅かされる大変さを読者にわかってもらうために、本書に体験談が取り入れられたそうです。
体験談を読むだけで混乱するのに、現実として体験している本人はどれほど大変なことかと文章を通して伝わってきました。
幻聴は精神疾患特有ではない
本文では、幻聴は誰にでもおこり得るもので精神疾患特有のものではないとされており、それを示す調査結果などが明示されています。
本文で紹介されていますが、たしかに私たちの生活でも
「ねえ、いま私の名前呼んだ?」
「呼んでないよ」
という会話をすることがあります。
そういった現象を私たちは「空耳」と呼び、とくに病気とは考えません。
またほかに声が聞こえる例として、座禅や宗教の指導者などが挙げられていました。
では声が聞こえる人でも病気の人とそうでない人は何か。
それは声の話す内容に違いがありました。
病気の人が聞く声は、本人に対して批判的であったり攻撃的であったり、本人を脅かす内容が多いようです。
日常生活に支障を来たすほどに声の影響を受けるのはさぞ負担が大きいことだと思います。
幻聴とソーシャルワーク
精神保健福祉士として働き始めてからは、「幻聴=症状」と当たり前のようにとらえていました。
もちろん医師にとって患者の幻聴の有無は、診断の目安になるため症状であることは否定できません。
しかし幻聴は、聞こえている本人にとっては現実という側面があります。
「幻聴=症状」のみの認識しかなければ、症状はできる限りないほうがいいという考えになってしまいます。
しかし、実際には薬物治療で幻聴が消える人もいれば消えない人もいます。
本書では、薬物療法だけで、その人の苦しんできた生活史や記憶が払しょくされるわけではないことが述べられます。
これは決して医療や薬を否定しているわけではありません。
幻聴をなくすことではなく、幻聴を受け入れながら自分らしい生き方を見つけることの大切さが強調されています。
私自身この部分に強く共感しました。
なぜなら、精神保健福祉士の施設実習中に学んだことに通じるものがあったからです。
施設実習中、利用者の方の中には統合失調症で幻聴がある方もいました。
実習先の作業所で、幻聴はその方の生活の一部として周囲はとらえていました。
幻聴がある利用者の方とスタッフの間では、日中活動の間は支障がないよう幻聴への対応方法をあらかじめ相談して互いが納得するような形で決められていました。
それは、幻聴を受け入れながらその人らしい生活を見つけていくソーシャルワーク実践だったと今振り返って思います。
レビューを読んで本が気になった方はこちららかご覧いただけます。