7月某日、ネットニュースのヘッドラインでひとつの記事が目に止まりました。
記事を読んで驚いたと同時に、もしかすると氷山の一角ではないかと考えてしまいました。
事件の概要
報道された記事の概要です。
宇都宮市元嘱託医の精神科医師は、「生活保護医療審査嘱託医」と「生活保護法指定医療機関監査指導嘱託医」という立場から、生活保護受給者の医療について市に助言する立場にありました。
2015年と2018年に市内の精神科病院の個別指導に立ち会った際に、病院で適切な入院や治療が行われていないとして複数の問題点を指摘し、市に立ち入り検査などの指導をするよう求めてきました。
しかし市は、立ち入り検査を実施せず、口頭や文書での指導にとどめていました。
そのため元嘱託医の医師が、宇都宮市と栃木県と厚生労働省に対し、立ち入り検査などを求める申出書を提出したものです。
指摘された不適切医療とは
毎日新聞2020年7月21日の記事によると、病院側は下記のような問題点を指摘されました。
- 認知症治療に必要な検査が実施されていない
- 長期入院者でうつ病の記載があるのに抗うつ剤の処方がされていない
- 重度のアルツハイマー型認知症患者が任意で入院している
- レセプトと市に提出する書類で病名が異なる
これらについて精神保健福祉士としての私個人の見解は以下のとおりです。
認知症治療に必要な検査が実施されていない
→認知症は心理検査や知能評価などの検査の結果に基づいて診断されます。
入院に際しすでに認知症の診断がついていた場合でも、治療方針をたてるにあたっては、必要な検査がなされるのが通常ではないでしょうか。
長期入院者でうつ病の記載があるのに抗うつ剤の処方がされていない
→長期にわたり、精神科の処方がない状態は症状が安定しているとみなされるため、入院継続にはその必要性を示す明確な根拠が必要です。
明確な根拠がないまま入院継続がなされていれば人権侵害にあたる恐れがあります。
重度のアルツハイマー型認知症患者が任意で入院している
→任意入院には本人の同意が必要です。
入院に同意できる状態で、重度のアルツハイマー型認知症というのは通常は両立しがたいと思います。
本人の同意が得られなければ、任意入院ではなく家族等の同意による医療保護入院になるのではないでしょうか。
レセプトと市に提出する書類で病名が異なる
→基本は診療録(カルテ)です!
レセプトでも市に提出する書類でも保険請求の診断書でも、病名は本来カルテと一致していなければならないはずです。
行政は公正な指導を
指導に立ち会った精神科医師と代理人によって問題点が明るみになったわけですが、じつはこの元嘱託医のような立場があったことは今回初めて知りました。
CRT栃木放送(2020年7月20日)によれば、2018年7月1日時点、この病院のベッド数は653床、入院患者が486人で、そのうち228人が生活保護の受給者だったということです。
入院患者のほぼ半数が生活保護受給者で、ベッド数のおよそ3分の1を占めています。
この病院の経営事情はわかりませんが、数ある精神科病院の中には、退院後の受入れ先がなければ治療が終了しても患者さんに長くいてもらっていいという病院が全くないとはいえません。
それが今回の報道が氷山の一角ではないかと考えた一因でした。
どうかうやむやにされずに、行政は人権と適正な医療費公費負担のために公正な指導を行ってもらいたいと思います。