精神保健福祉法には一般人による診察の申請に関する規定というのがあります。
措置入院に至るケースは警察官による23条通報が大半ですが、じつは一般の人が、精神障害者またはその疑いのある人について診察および必要な保護を、都道県知事に申請できる仕組みがあります。
そのことは精神保健福祉法にも明記されているため、精神保健業務に携わる人なら一般の人から問合せを受けることがあるかもしれません。法律上はあるものの、実際の運用状況はどうなっているのか、調べた結果を共有したいと思います。
精神保健福祉法第22条「診察および保護の申請」
最初に今回のテーマとなる精神保健福祉法第22条「診察および保護の申請」を見てみましょう。
(診察および保護の申請)
第22条 精神障害者またはその疑いのある者を知った者は、誰でも、その者について指定医の診察および必要な保護を都道府県知事に申請することができる。
2 前項の申請をするには、次の事項を記載した申請書を最寄りの保健所長を経て都道府県知事に提出しなければならない。
一 申請者の住所、氏名および生年月日
二 本人の現在場所、居住地、氏名、性別および生年月日
三 症状の概要
四 現に本人の保護の任に当たっている者があるときはその者の住所および氏名
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
どうでしょうか。条文だけ見るとそれほど難しい手続きのようには見えません。
「誰でも」とわざわざ書いてあるため、医療の知識がない人でも申請できるようにも受け取れます。
しかし実際はその反対で、診察に至る手続きは全く容易ではありません。
そもそも申請の対象となる「精神障害者またはその疑いのある者」とは、自傷他害のおそれのある状態にある、すなわち措置入院に相当するケースが要件になっているといえます。
単に精神障害者であるとか、その疑いがあるとか、診断目的や入院をさせたいからという理由で申請することはできません。
なぜかというと、申請により診察の対象となった人は、病状によっては強制的な入院につながり得る可能性があります。そのことから人権上の配慮が極めて慎重に為されているためです。
「診察の通知」と罰則規定
対象者に係る申請の必要性が保健所で認められ、申請書が受理された後は都道府県の担当課にて収受されます。
申請を受けた都道府県は、対象者が診察を要する状態か否かの判断をします。
仮に診察が”要”、すなわち診察を要する状態と判定されると、本人や家族に「診察の通知」をしなければなりません。
「診察の通知」については精神保健福祉法第28条に規定されています。
通知を為さずに行った診察に基づく措置入院は違法行為とされます。
また、虚偽の申請については6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金の罰則規定も精神保健福祉法の第54条に規定されています。
第54条 次の各号のいずれかに該当する者は、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。
一 第19条の6の13の規定による停止の命令に違反した者
二 虚偽の事実を記載して第22条第1項の申請をした者
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
申請は対象者の基本的人権に重大な影響を及ぼすおそれがあるため、罰則規定をもうけるほどに慎重を期した手順になっているのが実際です。
以上が精神保健福祉法第22条の一般人による申請の大まかな流れになります。
22条の申請について、都道府県単位で年に数件程度上がる地域もあるようですが、申請や診察に至ったケースを私自身はまだ聞いたことがありません。
実際に22条の申請に該当するような病状であれば、申請に至るまでに23条の警察官通報で保護される可能性が十分にあると思います。
条文だけ読むとたしかに形式的な手続きのように見えますが、人権上の配慮が極めて慎重に為されていることも含めて、精神保健業務に携わる者としてしっかり理解しておきたいところです。
まれに問合せがある「34条移送」についての記事も過去に書いています。
34条移送は地域差が大きく、実績があるところとほぼないところがあります。興味がある方はぜひご覧ください。